理学的検査法 学習資料

あはき臨床で使用される、また出題頻度の高い理学的検査法について、10項目に分類し、まとめたものである。

目次


1 頸椎部周囲の検査

(1)スパーリングテスト

 被検者は、坐位。頸部を軽度後屈させ、そのまま側屈させる。ついで頸椎の長軸方向へ圧を加える。
判定:側屈させた側の頸、肩、上肢に痺れや痛みの放散があれば陽性
意義:神経根障害(頸椎症、頸椎ヘルニアなど)

(2)ジャクソンテスト

 被検者は、坐位。頸部を軽度後屈させる。ついで頸椎の長軸方向へ圧を加える
判定:頸、肩、上肢に痺れや痛みの放散があれば陽性。
意義:神経根障害(頸椎症、頸椎ヘルニアなど)

(3)イートンテスト

 被検者は、坐位。頸部を側屈させる。側屈した側の逆の手関節を握り、後下外方へ引く。
判定:頸、肩、上肢に痺れや痛みの放散があれば陽性
意義:神経根障害(頸椎症、頸椎ヘルニアなど)、または末梢神経の障害
★ほぼ同様の手技で、動脈拍動を指標に斜角筋症候群を判定するハルステッドテストがある。

2 胸郭出口部の検査

(4)アレンテスト

 被検者は、坐位。橈骨動脈の拍動を触知しながら、肩関節外転90°、肘関節屈曲90°の位置まで持っていく。この状態で、頭部を健側に回旋するように指示する。
判定:動脈拍動の減弱、消失が認められれば陽性
意義:斜角筋症候群

(5)アドソンテスト

 被検者は、坐位。被検者の両手を膝の上にのせ、両手の橈骨動脈を確認する。次いで、頭部を伸展させ患側に回旋させる(斜め上を向くよう指示する)。更に息を大きく吸って止めさせる。
判定:動脈拍動の減弱、消失が認められれば陽性
意義:斜角筋症候群

(6)モーリーテスト

 被検者は、坐位。鎖骨上窩の斜角筋部を四指で圧迫する。
判定:圧迫した側の上肢に痺れや痛みの放散があれば陽性
意義:斜角筋症候群

(7)ライトテスト

 被検者は、坐位。肩関節屈曲90°、肘関節屈曲90°の位置にもっていく。次いで、橈骨動脈の拍動を確認しながら肩関節をゆっくり水平伸展させる。
判定:動脈拍動の減弱・消失、痛み・痺れの誘発があれば陽性
意義:過外転症候群(小胸筋の障害)
★肘関節を伸展させた状態で肩関節を外転させていき、痛みや拍動の有無をみる方法もある。

(8)エデンテスト

 被検者は、坐位。両側の上肢を下方に引き下げながら橈骨動脈を確認する。
判定:動脈拍動の減弱・消失、痛み・痺れの誘発があれば陽性
意義:肋鎖症候群(鎖骨下筋の障害)

3 肩関節の検査

(9)ダウバーンテスト

 被検者は、坐位。被検者の肩関節を軽度外転させ、肩峰と大結節の間を触診し痛みの部位を探す。その部を指で押さえたまま、肩関節を90°まで外転させる。
判定:外転に伴い、痛みが消失すれば陽性
意義:肩峰下滑液包の障害

(10)ペインフルアークテスト

 被検者は、坐位。自動運動で、上肢を可動域の限界までゆっくりと外転するように指示する(自動運動が困難な場合は他動運動で行う)。検査中、どの角度で痛みの誘発があるかを確認する。
判定:外転30〜110°の間で痛みがあれば陽性
意義:腱板損傷(特に棘上筋)、肩峰下滑液包炎、烏口肩峰靱帯の障害

(11)ドロップアームテスト

 被検者は、坐位。患側の肩関節をおよそ90°外転させる。次いで、ゆっくりと上肢を元に戻すよう指示し、被検者は手を離す。
判定:ゆっくり下げられなかったり、肩周囲に激しい痛みを訴えた場合は陽性
意義:腱板の断裂(特に棘上筋)

(12)インピンジメントテスト

 被検者は、坐位。患側の肩甲骨を固定して、肩関節を内旋・肘関節を屈曲させる。次いで、肩関節を前方屈曲させる。
判定:90°屈曲の途中で肩峰・大結節付近にクリック音を触知したり、痛みがあれば陽性
意義:腱板損傷、インピンジメント(衝突)症候群

(13)ヤーガソンテスト

 被検者は、坐位。肘関節を90°屈曲、肘を側胸部で固定する。検者は握手をするように手を握り、前腕を回外するように指示する。この時、回内方向へ抵抗を加える。
判定:結節間溝部に痛みがあれば陽性
意義:上腕二頭筋長頭腱炎

(14)スピードテスト

 被検者は、坐位。上肢を下垂、肘関節伸展、前腕回外位にしておく。次いで、肩関節を屈曲させるように指示する。検者は前腕遠位部をつかみ、肩関節屈曲に対し抵抗を加える。
判定:結節間溝部に痛みがあれば陽性
意義:上腕二頭筋長頭腱炎

(15)ストレッチテスト

 被検者は、坐位。一方の手で肘関節の上方、他方の手で手関節の上方を持ち、肩関節を伸展させる。この時、肩関節前面に痛みが出たら、肘関節を屈曲させる。
判定:肘関節を屈曲させた時に痛みが消失すれば陽性
意義:上腕二頭筋長頭腱炎

4 肘関節の検査

(16)手関節背屈テスト、トムゼンテスト

 被検者は、坐位。肘関節を軽度屈曲、前腕を回内位にしておく。次いで、手関節を背屈(伸展)するよう指示し、検者はそれに抵抗を加える。
判定:上腕骨外側上顆部に痛みがあれば陽性
意義:上腕骨外側上顆炎(バックハンドテニス肘)
★手関節を屈曲させ、それに抵抗を加える逆トムゼンテストもある。(内側上顆炎(フォアハンドテニス肘)を評価するテスト法)

(17)チェアテスト

 被検者は立位、椅子またはそれに代わるような重りを持ち上げさせ、前腕伸筋群の収縮を確認する。
判定:上腕骨外側上顆部に痛みがあれば陽性
意義:上腕骨外側上顆炎(バックハンドテニス肘)

5 手関節の検査

(18)チネルテスト

 被検者は、坐位。手関節前面中央(手根管部)を叩打または圧迫する。
判定:正中神経領域(手掌前面、母指から薬指)に痺れや痛みの放散があれば陽性
意義:手根管症候群

(19)ファレンテスト

 被検者は、坐位。両側の指先を下に向け、手背を合わせる。最大限に掌屈させた状態で、1分間保持させる。
判定:正中神経領域(手掌前面、母指から薬指)に痺れや痛みの放散があれば陽性
意義:手根管症候群

(20)フィンケルシュタインテスト

 被検者は、坐位。母指を手掌の中に握りこませ、手関節を尺屈させる。
判定:橈骨茎状突起付近に痛みがあれば陽性
意義:短母指伸筋、長母指外転筋の腱鞘炎(ドケルバン病)

(21)フローマンテスト

 被検者は、坐位。被検者の母指と示指との間に紙を入れ、抜け落ちないようしっかりと挟ませる。検者はその紙を引っ張る。
判定:母指の内転に力が入らず、すぐに紙が抜けてしまう場合は陽性
意義:尺骨神経麻痺

6 腰下肢の検査

(22)ケンプテスト

 被検者は立位。検者は腰椎部と健側の肩関節付近を支える。次いで、体幹を後屈・患側に側屈させる。(健側の手を患側殿部から下肢に向かって下げるよう指示する)
判定:腰部の痛み、下肢後側の放散痛があれば陽性
意義:椎間板ヘルニア、椎間関節性腰痛、脊柱管狭窄症

(23)下肢伸展挙上テスト(SLRテスト)

 被検者は、仰臥位。被検者の大腿下部前面と足関節後面を持ち、ゆっくりと股関節を屈曲させる。
判定:0〜70°の間で下肢後面に痛みの放散があれば陽性
意義:腰椎椎間板ヘルニアに伴う坐骨神経痛
★このテストの増強法として、足関節の伸展操作を加える、ガワース=ブラガードテストがある。

(24)ラセーグテスト

 被検者は、仰臥位。被検者の股関節、膝関節を90°屈曲しておく。次いで大腿部前面と足関節後面を持ち、膝関節を伸展させていく。
判定:下肢後面に痛みの放散があれば陽性
意義:坐骨神経痛、髄膜刺激症状

(25)Kボンネットテスト

 被検者は、仰臥位。股関節・膝関節を90°屈曲させておく。膝と上前腸骨棘を支持し、股関節を内転・内旋させる。
判定:殿部(梨状筋部)から下肢後側に放散痛があれば陽性
意義:梨状筋症候群

(26)大腿神経伸展テスト(FNSテスト)

 被検者は腹臥位。一方の手で仙骨部を固定し、他方の手で足部を持ち、ゆっくり膝関節を屈曲させる。
判定:股関節部から大腿前面にかけての放散痛があれば陽性
意義:大腿神経、またはL2〜L4付近の神経根障害
★陽性所見が得られない場合は、股関節を過伸展させる。

(27)母趾背屈力テスト

 被検者は、仰臥位。母趾を背屈させ、それに抵抗を加える。
判定:左右を比較し、他方の筋力の低下が認められれば陽性
意義:L5の神経根障害(L4・L5間のヘルニアなど)
★ミオトームに関連するテストで、四指背屈テスト、母趾底屈テストなどもある。

7 股関節の検査

(28)パトリックテスト

 被検者は、仰臥位。被検者の股関節を屈曲、外転、外旋位にさせる(4の字)。次いで、一方の手で、健側の上前腸骨棘を固定し、他方の手で膝内側をベッド面に向かって圧迫する。
判定:検査中股関節に痛みを訴えたり、股関節の外旋が十分できない場合は陽性
意義:股関節病変(変形性股関節症など)、内転筋の障害
★痛みや筋緊張の部位などから、股関節・内転筋の障害を区別する。

(29)トーマステスト

 被検者は、仰臥位。被検者に両手で健側の膝を抱え込ませ、大腿を胸に近づけるように指示する。
判定:膝を抱え込んだ時に、反対(患側)の大腿が挙上すれば陽性
意義:股関節の屈曲拘縮、腸腰筋の障害など

(30)トレンデレンブルグテスト

 被検者は立位、腰部をしっかり支え、患側の下肢を軸足にして、ゆっくり健側下肢を挙上させる。
判定:患側の下肢で立った時、健側の骨盤が下がれば陽性
意義:中・小殿筋の麻痺、股関節の障害

8 仙腸関節の検査

(31)ニュートンテスト

A.被検者は腹臥位、両手掌で仙骨下部を圧迫する。
B.被検者は背臥位、左右の上前腸骨棘を近づけるように圧迫する。
C.被検者は背臥位、左右の上前腸骨棘を引き離すように圧迫する。
判定:以上、3つのテストを行い、2つ以上で仙腸関節部に痛みがあれば陽性
意義:仙腸関節部の障害

9 膝関節の検査

(32)マクマレーテスト

 被検者は、仰臥位。下腿遠位部と膝関節部をつかみ、下腿を外旋させる。そのまま股関節・膝関節を最大屈曲位になるまで曲げ、ゆっくり元に戻す。同様のテストを膝内旋位でも行う。
判定:下腿外旋時に内側裂隙部・内旋時に外側裂隙部に、クリック音や疼痛があれば陽性
意義:内側裂隙の疼痛やクリック音は内側半月板損傷、外側裂隙の疼痛やクリック音は外側半月板損傷

(33)アプレイテスト

 被検者は伏臥位、患側の膝関節を90°屈曲位にし、検者の膝を大腿後面に乗せる。

A.押しアプレイテスト

 一方の手で下腿下部を、他方の手で踵をつかむ。次いで、ベッド面に向かって圧迫しながら下腿を外旋・内旋させる。
判定:下腿外旋時に内側裂隙部・内旋時に外側裂隙部に疼痛があれば陽性
意義:膝内側の疼痛は内側半月板、膝外側の疼痛は外側半月板の損傷

B.引きアプレイテスト

 両側の手で下腿遠位部をつかむ。次いで、上方に牽引しながら、下腿を内旋・外旋させる。
判定:下腿内旋時に膝外側、下腿外旋時に膝内側の疼痛があれば陽性、
意義:膝外側の疼痛は外側側副靱帯、膝内側の疼痛は内側側副靱帯の損傷

(34)膝外反・内反ストレステスト

 被検者は、仰臥位。一方の手を大腿下部外側に、他方の手を下腿下部内側にあてる。大腿を内側へ、下腿を外側へ押す(外反テスト)。次に手を持ち替え大腿を外側へ、下腿を内側へ押す(内反テスト)。
判定:外反テスト、内反テストで、動揺性が大きい場合や、内・外側裂隙に疼痛があれば陽性
意義:外反テストでの膝内側の疼痛は内側側副靱帯損傷、内反テストでの膝外側の疼痛は外側側副靱帯損傷

(35)前方・後方引き出しテスト

 被検者は、仰臥位。股関節・膝関節を屈曲させる。被検者の足部を検者の膝・または殿部で固定し、両手で下腿近位部を保持する。大腿骨に対し下腿を前方に引く(前方引き出しテスト)。次いで、後方に押す(後方引き出しテスト)
判定:前後への動揺が著名であれば陽性
意義:前方引き出しテスト陽性は前十字靱帯損傷、後方引き出しテスト陽性は後十字靱帯損傷
★前方引き出しテストを膝関節軽度屈曲位で行う場合、ラックマンテストという。

(36)膝蓋跳動テスト

 被検者は、仰臥位。一方の手掌を膝蓋骨上方15cm位の部位に置き、その部を強く圧迫しながら膝蓋骨底まで押し下げる。他方の示指と中指を使い、膝蓋骨を大腿骨にぶつけるように数回圧迫する。
判定:膝蓋骨を圧迫した時に、抵抗やコツコツと動く感覚があれば陽性
意義:関節液の過剰な貯留

(37)グラスピングテスト

 被検者は、仰臥位。膝屈曲位の状態で、大腿下部外側(腸脛靱帯)を圧迫する。そのまま膝を伸展させる。
判定:膝伸展時に圧迫している部位に疼痛があれば陽性。
意義:腸脛靱帯炎

10 足関節の検査

(38)外側・内側安定性テスト

 被検者は背臥位、一方の手で踵をつかみ、他方の手で内返し・外返しを行う。
判定:内返し・外返しをさせた時、ゆるみや痛みがあれば陽性
意義:捻挫など。内返しの際にゆるみや外側に痛みがある場合は前距腓靱帯や踵腓靱帯の損傷、外返しの際にゆるみや内側の痛みがある場合は、三角靱帯の損傷