解剖学 まとめ

0 解剖学の分類

系統解剖:特定の働きを担う器官系を中心に構造を研究する分野。

局所解剖:特定の部位(場所)を中心に構造を研究する分野。

病理解剖:病巣や死因の特定など、病的状態の体を研究する分野。

1 人体の構成

細胞→組織→器官→器官系→人体

2 細胞の構造

大きさは、小さいものは5μm(リンパ球)、大きなものは120μm(卵子)などがある。1μm(マイクロメートル)は1/1000mm。

1nm(ナノメートル)は、1/1000μmで、細胞内の構造や分子などの大きさになる。

細胞膜は8〜10nmの膜で脂質(リン脂質)の二重層からなる。各種物質の移動は、この膜を介して行われる。

細胞内には、以下のような構造物がある。(細胞内小器官)

核:遺伝情報(DNA=デオキシリボ核酸)の伝達。

ミトコンドリア:エネルギー(ATP)の合成

リボゾーム:蛋白質の合成(蛋白質はRNA=リボ核酸の情報を元に組み立てられる)

小胞体:リボゾームが付着した粗面小胞体と、付着していない滑面小胞体がある。

リソソーム(ライソゾーム):不要な物質を細胞外に排出する。細胞内消化

ゴルジ装置:細胞内の輸送、顆粒の濃縮・分泌に関与

中心体:細胞分裂に関与

3 細胞分裂と遺伝子

無 糸分裂と有糸分裂に分けられる。

無糸分裂:単細胞生物に見られる分裂。核が細長く伸びて二つに分裂する。染色体は形成されない。

有糸分裂:遺伝子(DNA)が染色体に乗って細胞の両極に移動する。分裂後も染色体の数(人は46本)は変わらない。

減数分裂:染色体の数が半分になる分裂。生殖細胞(精子・卵子)の分裂などで見られる。減数分裂に失敗すると染色体異常として重篤な疾患を引き起こす。例:21トリソミーのダウン症

DNA(デオキシリボ核酸)は、リン酸、糖、4種類の塩基からなる。(アデニンA、グアニンG、シトシンC、チミンT)

RNA(リボ核酸)は、蛋白質合成の設計図で、DNAと同じくリン酸、糖、4種類の塩基からなる。(アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルU)

4 染色体の特徴と人体の発生

人の染色体は46本で、22対の常染色体及び、1対の性染色体によって構成される。

性染色体には、X染色体とY染色体があり、女性はXを2本、男性はXとYを1本ずつもつ。

精子はX染色体またはY染色体を1本もつ。卵子はX染色体を1本もつ。

人体の発生は1個の受精卵から始まる。受精後3週ほどで胚葉(幼生 物)となり、ここから様々な器官が発生する。

外胚葉:皮膚(表皮)、神経(脊髄・脳・末梢神経)、感覚(眼球・内耳・舌)

中胚葉:運動(骨・筋)、循環(心臓・血管・リンパ管)、泌尿生殖(腎臓・精巣・卵巣・子宮)

内胚葉:消化器(胃・腸、肝臓、膵臓)、呼吸器(気管・気管支・肺)、尿路(尿管、膀胱、尿道)

5 組織の分類

組織は4種類に分けられる。

上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織

6 上皮組織の種類

血管・リンパ管の内壁:単層扁平上皮

皮膚の表面・食道・直腸:重層扁平上皮

腸内腔:単層円柱上皮:

膀胱・尿管の内皮:移行上皮

鼻腔・気管・卵管:多列繊毛上皮

また、各種物質の分泌に特化した腺上皮がある(唾液・汗・涙・ホルモンなど)。

7 結合組織(支持組織)の種類

結合組織は他の組織や器官の間を埋める組織で他の組織に比べ機質を多く含む。

線維性結合組織(密性結合組織)、軟骨・骨組織脂肪組織、血液とリンパ

8 線維性結合組織

3種類の線維などによって構成される組織。

膠原線維:きわめて強い抗張性をもつ。

弾性線維:弾力性があり、長さを変えることができる。黄色靱帯などに多く見られる。

細網線維:異物の捕食機能に優れる。胸腺・脾臓・リンパ節・骨髄などに多く存在する。これらの線維をもつ構造を細網内皮系という。

9 軟骨・骨組織

骨は骨細胞の周りに膠原線維・リンやカルシウム(骨基質)が沈着した構造になっている。中心部には血液を賛成する骨髄が見られる。表層から骨膜、緻密質、海綿質と区分する。

線維軟骨:関節円板・半月板、恥骨結合

弾性軟骨 喉頭蓋軟骨、耳介軟骨、鼻軟骨

硝子軟骨:骨端軟骨・関節軟骨など、その他の軟骨

10 脂肪、血液

脂肪組織:細胞質は大量の中性脂肪で占められる。

血液は血球と血漿からなる。

赤血球:円盤形で核を持たない。1立方ミリメートル(1μL)中に500万個(女性は、450万個)。代表的な働きは酸素の運搬。

白血球:6000個。働きは生体の防御。好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球がある。

血小板:核を持たない。25万個。働きは血液凝固。

11 筋組織の種類と特徴

骨格筋、心筋、平滑筋の3種類。

骨格筋:骨に付着する。体性神経に支配される(随意筋)。多核細胞。収縮の性質によって赤筋と白筋に区別される。

心筋:心臓に付着する。自律神経に支配される(不随意筋)。横線が見られる。1カ所で起こった刺激が効率よく全体に伝わる刺激伝導系という仕組みをもつ。

平滑筋:内臓や血管に付着する。自律神経に支配される(不随意筋)。

骨格筋・心筋は2種類の筋線維が規則正しく並び、横紋が見られるので、横紋筋ともいう。

12 神経組織の特徴

 神経組織は、星形の神経細胞(ニューロン)とその働きを補助する神経膠細胞(グリア細胞)からなる。

神経細胞体からは、1本の軸索突起・数本の樹状突起の2種類が出る。

軸索突起は他の細胞に情報を伝達し、樹状突起は、他の細胞から情報を受け取る。

軸索を取り巻くグリア細胞を髄鞘という(末梢はシュワン細胞、中枢は希突起膠細胞)。またグリア細胞は中枢神経系では、血液-脳関門を形成し、血液と脳の間で栄養のやりとりをする(星状膠細胞)。

13 皮膚の構造

表皮、真皮、皮下組織からなる。表皮・真皮が皮膚の本体で、平均の厚さは約2mmである。

表皮は重層扁平上皮からなり、感覚神経は無い。爪は表皮の変形したものである。表面から角質層、淡明層、顆粒層、有棘層、基底層となる。深部にはメラニン(黒褐色の色素)を作る細胞がある。

真皮は強靱な結合組織の層で、毛細血管や感覚神経を多く含む。表皮に向かって真皮乳頭が突出する。毛根が見られる。

皮下組織は柔らかい結合組織の層で、皮膚本体と骨格・筋とをつなぐ。大部分は皮下脂肪

14 皮膚に開口する分泌腺(皮膚腺)

汗腺:全身に分布するエクリン腺(小汗腺)と腋窩などに多く分布するアポクリン腺(大汗腺)とがある。エクリン腺は体温調節など重要な役割を担っているが、特に手掌・足底では精神性発汗が見られる。

脂腺:毛包に開口し、脂肪性の物質を分泌する。脂腺は手掌や足底にはない。

乳腺:乳頭の周りに放射状に配置され、乳頭に開口する。下垂体からのプロラクチン分泌によって乳腺の発育が促進され、オキシトシンが分泌されることで乳汁分泌が起こる。

15 解剖学的用語

人体は体幹(頭部・頸部・胸部・腹部・骨盤部)と体肢(上肢・下肢)に分けられる。

上肢:腋窩、上腕、肘窩、前腕、手部(手掌、手背)

下肢:大腿、膝窩、下腿、足部(足背、足底)

6 位置を示す用語

解剖学的肢位(正位)は、直立し、つま先は前方に向け、上肢を体側に下ろし、手掌を前に向けた状態。身体の位置や運動方向を表す場合の基準となる。

内側と外側、近位と遠位、浅と深、前と後、上と下

矢状面、正中面:体を左右に分ける面。

水平面:体を上下に分ける面。

前頭面:体を前後に分ける面。

17 器官系の種類

骨格系、筋計、脈管系、消化器系、呼吸器系、泌尿器系、生殖器系、内分泌系、神経系、感覚器系

18 骨の総論

骨には、指示、運動、保護、電解質の貯蔵、造血などの役割がある。

骨中心部にある骨髄の中で造血が行われる。特に造血の活発なものを赤色骨髄、脂肪などの結合組織に置き換わって造血の行われないものを黄色骨髄という。ほとんどの骨は加齢によって黄色骨髄となるが、胸骨、腸骨、大腿骨などは赤色骨髄が保たれる。

 骨の形状として、長骨(上腕骨、大腿骨など)、短骨(手根骨、足根骨など)、扁平骨(頭頂骨、胸骨、肋骨など)、含気骨(上顎骨、蝶形骨、前頭骨、篩骨)、不規則骨(顔面の骨など)、種子骨(膝蓋骨)がある。

 大部分の骨は軟骨内骨化によって作られるが(置換骨という)、脳頭蓋は線維性の膜が骨に置き換わる膜内骨化によって作られる(付加骨という)。

骨の成長については、特に骨端部分は軟骨内骨化によって、骨幹部分は膜内骨化によって行われる。

骨は表層の骨膜と内部の骨質(緻密質と海綿質)からなる。特に長骨の骨幹部では緻密質が厚く骨端部では海綿質が厚い。骨膜と骨質はシャーピー線維によって結合する。

骨表面には複数の栄養孔があり、ここから血管が出入りするフォルクマン管が通る。フォルクマン管は緻密質中心にあるハバース管につながる。緻密質はハバース管という管を中心に、多数のハバース層板が同心円上に並んでいる。骨小腔には骨細胞がみられる。

19 骨の連結

大部分の骨は他の骨と連結する。連結の仕方には以下の3種類がある。

1.線維性連結:繊維性結合組織による連結。靱帯による結合、頭蓋に見られる縫合、歯槽骨と歯根との釘植などがある。

2.軟骨性連結:骨と骨が軟骨によって結合しているもの。胸骨柄と胸骨体との結合、恥骨結合、椎間円板など。

3.滑膜性連結:骨と骨の間に滑膜という組織をもつもの。この結合を一般に関節といい、大部分の骨に見られる。

 関節を構成する骨は関節包によって包まれる。関節包の外膜を線維膜、内膜を滑膜といい、滑膜では滑液が分泌され、関節腔を潤滑にする。

 関節を構成する骨の数によって、単関節・複関節と分類される。

 運動軸の数によって1軸性・2軸性・多軸性関節と分類される。

 関節を構成する骨で、凸になっている方を関節頭、凹になっているものを関節窩という。

 関節の形状には以下の9種類がある。

球関節、臼状関節、蝶番関節、螺旋関節、楕円関節、車軸関節、顆状関節、平面関節、半関節

関節による運動には大きく以下の三つがある。

屈曲・伸展:左右方向の運動軸による運動。

外転・内転:前後方向の運動軸による運動。足底を外・内側に向ける運動を、外反・内反という。

外旋・内旋:上下方向の運動軸による運動。前腕の外旋・内旋のことを、回外・回内という。

上腕または大腿を外転させた状態から前方移動する運動を水平屈曲または内分回し、後方に移動する運動を水平伸展または外分回しという。

20 脊柱の基本的な構造

頸椎:7 胸椎:12 腰椎:5 仙骨:1(仙椎:5) 尾骨:1(尾椎:3)頸椎はC、胸椎はTh、腰椎はL、仙椎はSと表記する(C5、TH12など)。

 椎骨の前方には椎体、後方には椎弓がある。椎弓が囲む孔を椎孔、椎孔が連なった孔を脊柱管といい、この中に脊髄が入る。

後方に伸びる突起は、棘突起(1)

左右に伸びる突起は、横突起(2)

椎弓の基部にある切痕は、上・下椎切痕(4)

切痕の後方で上下に伸びる突起は、上・下関節突起(4)

上・下椎切痕によって作られる椎間孔・また仙骨の仙骨孔から脊髄神経が出る。

椎骨は以下の3種類によって連結している。

1.上・下関節突起によって構成される椎間関節(平面関節)

2.各椎体の間にある椎間円板による軟骨結合

椎間円板はスポンジ状の髄核とそれを取り囲む線維輪からなる。

3.椎弓、椎体などをつなぐ靱帯結合

靱帯には、椎体の前後を走る前・後縦靱帯、椎弓間にある黄色靱帯、棘突起間にある棘間靱帯、棘突起の後方を走る棘上靱帯(頸部では項靱帯という)がある。靱帯は基本的に膠原線維を多く含み白く見えるが、黄色靱帯は弾性線維を多く含むのが特徴的である。

脊柱には以下のような生理的弯曲が見られる。

頸部:前弯、胸部:後弯、腰部:前弯、仙・尾骨部:後弯

21 各椎骨の特徴

第1頸椎(C1):環椎またはアトラスと呼ばれる。指輪のような形で、棘突起・椎体がない。上関節突起は後頭骨と環椎後頭関節を作る(楕円関節)。

第2頸椎(C2):軸椎と呼ばれる。歯突起が上に伸び、環椎との間に正中環軸関節を作る(車軸関節)。環椎十字靱帯が歯突起の後方を支持する。

第7頸椎(C7):隆椎と呼ばれる。棘突起が突出する。

全ての頸椎の横突起には横突孔があり、第6頸椎以上の横突孔内を椎骨動脈が脳に向かう。

 胸椎の棘突起はやや下方に向かって伸びる。胸椎の椎体と横突起には左右12対の肋骨が付着する(肋骨頭関節、肋横突関節)。肋骨頭関節は肋骨が上下の椎体を跨ぐように連結する。

 腰椎には肋骨の退化した肋骨突起、本来の横突起であった副突起がある。上関節突起の外側に乳頭突起が見られる。

仙骨の後面正中には棘突起の癒合によってできた正中仙骨稜が、その両側には椎間孔の癒合してできた4対の後仙骨孔がある。仙骨全面にも4対の前仙骨孔がある。仙骨外側面を耳状面といい、腸骨と仙腸関節を作る(半関節)。仙骨の下端にある孔を仙骨裂孔という。第1仙椎の前方への突出を岬角という。

尾骨は尾の退化したものである。

22 胸郭の構造(胸骨・肋骨)

胸郭は12個の胸椎、12対の肋骨、胸骨からなる。

第1胸椎、第1肋骨、胸骨の上部で作られる口を胸郭上口といい、頭頸部と胸腹部をつなぐ血管・神経などが通る。

胸骨は上部から、胸骨柄、胸骨体、剣状突起に区分される。胸骨柄の上端には、頸切痕という窪みがある。胸骨柄と胸骨体の間の突出を胸骨角といい、第2肋骨が付着する。鎖骨との間に関節円板が入り胸鎖関節を作る。また、肋骨とは一部は胸肋関節、一部は軟骨結合をする。

第1−7肋骨:真肋、8−12肋骨:仮肋、11・12肋骨:浮遊肋

肋骨は肋骨頭・肋骨頸・肋骨体と区分される。肋骨体には筋の付着部となる肋骨角が見られる。

23 上肢の骨と関節

上肢の骨は、上肢帯骨と自由上肢骨に分類される。

上肢帯骨は鎖骨と肩甲骨、自由上肢骨は上腕骨、橈骨、尺骨、手の骨からなる。

鎖骨は胸骨と肩甲骨で関節を作る(胸鎖関節、肩鎖関節)。胸鎖関節には関節円板が入る。鎖骨の内側2/3と外側1/3の間は弯曲方向が変わるため骨折しやすい。

肩甲骨の主な部位:上角、下角、肩甲棘、肩峰、烏口突起、肩甲切痕、棘上窩、棘下窩、肩甲下窩、関節窩

左右の肩甲骨上角をつなぐ線は、第2胸椎棘突起上を通る。

左右の肩甲棘内端をつなぐ線は、第3胸椎棘突起上を通る。

左右の肩甲骨下角をつなぐ線は、第7胸椎棘突起上を通る。

上腕骨の主な部位:上腕骨頭、大結節、小結節、結節間溝、上腕骨頸(外科頸)、上腕骨体、三角筋粗面、外側上顆、内側上顆、上腕骨滑車、上腕骨小頭

上腕骨頭と肩甲骨の関節窩の間に肩関節(肩甲上腕関節)が作られる(球関節)。この関節は可動性が大きいが、関節窩が浅いため脱臼しやすい。回旋筋鍵盤(筋肉)や関節唇(軟骨)によって補強される。

橈骨の主な部位:橈骨頭、関節環状面、尺骨切痕、橈骨粗面、橈骨茎状突起

橈骨は上部が細く下部が太い。

尺骨の主な部位:滑車切痕、肘頭、鉤状突起、橈骨切痕、尺骨粗面、関節環状面、尺骨頭、尺骨茎状突起

尺骨は上部が太く、下部が細い。

上腕骨、橈骨、尺骨の間に以下のような関節が作られる。

腕尺関節(蝶番関節):上腕骨(滑車)と尺骨(滑車切痕)との関節。

腕橈関節(球関節):上腕骨(小頭)と橈骨(橈骨頭)との関節。

上橈尺関節(車軸関節):前腕上部で橈骨の関節環状面と尺骨の橈骨切痕との関節。

上記3個は同じ関節包に包まれ肘関節ともいう。これら関節は外側・内側側副靱帯、橈骨輪状靱帯によって補強される。

下橈尺関節(車軸関節):前腕下部で、橈骨の尺骨切痕と尺骨の関節環状面との関節。

また関節とは別に橈骨・尺骨は前腕骨間膜によっても結合している。

手根部には8個の手根骨がある。近位列橈側から、舟状骨、月状骨、三角骨、豆状骨、大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鉤骨。

5本の各指には、それぞれ1個の中手骨、指骨(基節骨、中節骨、末節骨)がある。母指には、中節骨が無い。

橈骨手根関節(楕円関節):橈骨と手根骨(舟状骨・月状骨・三角骨)との関節。

手根間関節(平面関節):手根骨同士の関節。

手根中手関節(半関節、母指のみ鞍関節):手根骨(大菱形骨・小菱形骨・有頭骨・有鉤骨)と中手骨との関節。

中手指節関節(顆状関節):中手骨と基節骨との関節。MP関節ともいう。

手の指節間関節(蝶番関節):指骨間の関節。近位指節間関節(PIP関節)、遠位指節間関節(DIP関節)があるが、母指には中節骨がないため、IP関節という。

24 下肢の骨と関節

下肢の骨は下肢帯骨と自由下肢骨に分類される。

下肢帯骨は2個の寛骨(腸骨・坐骨・恥骨)からなる。2個の寛骨と仙骨によって骨盤が作られる。

自由下肢骨は、大腿骨、膝蓋骨、脛骨、腓骨、足の骨よりなる。

腸骨の主な部位:腸骨稜、上前腸骨棘、下前腸骨棘、上後腸骨棘、腸骨窩、閉鎖孔、寛骨臼

坐骨の主な部位:坐骨結節、坐骨棘

坐骨棘の上にできる孔を大坐骨孔、下にできる孔を小坐骨孔という。

恥骨の主な部位:恥骨結合、恥骨結節

骨盤は男女によって形が異なる。

骨盤腔 男性:狭く漏斗形、女性:広く円筒形

閉鎖孔 男性:卵円形、女性:三角形

仙骨 男性:幅が狭く長い、女性:幅が広く短い

恥骨下角 男性:狭い、女性:広い

大腿骨の主な部位:大腿骨頭、大腿骨頸、大腿骨体、大転子、小転子、転子窩、殿筋粗面、粗線、内側上顆・外側上顆、顆間窩

大腿骨頸は大腿骨体に対して内上方への角度をもつ。これを頸体角といい、120〜130度が正常である。

股関節(臼状関節):寛骨臼と大腿骨頭との関節。関節唇を有する。大腿骨頭靱帯(関節内靱帯)、腸骨大腿靱帯、坐骨大腿靱帯、恥骨大腿靱帯などが関節を補強する。

膝蓋骨の主な部位:外上角・内上角

膝蓋骨は腱の摩擦を防ぐためにできた代表的な種子骨である。

膝関節(顆状関節):大腿骨、膝蓋骨、脛骨の関節。外・内側側副靱帯、前・後十字靱帯(関節内靱帯)によって補強されている。大腿骨と脛骨との適合性を増すために、外・内側半月(線維軟骨)を有する。

脛骨の主な部位:外側顆・内側顆、顆間隆起、脛骨粗面、内踝

腓骨の主な部位:腓骨頭、外踝

脛骨と腓骨は以下の3種類によって連結している。

1.脛腓関節:脛骨上部と腓骨上部との半関節。

2.脛腓靱帯:脛骨下部と腓骨下部とをつなぐ靱帯。

3.下腿骨間膜

足根部には7個の足根骨がある。踵骨、距骨、舟状骨、立方骨、内側楔状骨、中間楔状骨、外側楔状骨

距腿関節(螺旋関節):脛骨・腓骨と距骨との関節。一般的には足関節といわれる。内側の三角靱帯、外側の前・後距腓靱帯、踵腓靱帯によって補強される。

足根間関節:足根骨間の関節。距骨下関節、距踵舟関節、踵立方関節などがあるが、後者2つは協調して動きショパール関節といわれる。

手と同様、各指には1個の中足骨、基節骨・中節骨・末節骨がある。母指には中節骨が無い。

足根中足関節(平面関節):足根骨と中足骨との関節。リスフラン関節ともいわれる。

中足指節関節(球関節):中足骨と基節骨との関節。

足の指節間関節(蝶番関節):手と同様、PIP、DIPがある。

足底は靱帯や骨が結びつき足弓というアーチを作る(縦足弓、横足弓)。この構造は足底にかかる加重を分散させる。

25 関節の形状のまとめ

1.球関節:関節頭が球形のもの。運動範囲が最も広い。(肩関節、腕橈関節)

2.臼状関節:関節頭は球形だが、関節窩が深いもの。運動範囲は球関節ほど広くない。(股関節)

3.蝶番関節:蝶番の構造をした1軸性の関節。(腕尺関節、手足の指節間関節)

4.螺旋関節:蝶番関節に類似するが、関節面の角度によって螺旋状の運動をするもの。(距腿関節)

5.楕円関節:関節頭が楕円形のもの。(環椎後頭関節、橈骨手根関節)

6.車軸関節:車軸のような構造をした1軸性関節。(環軸関節、上・下橈尺関節)

7.顆状関節:球関節に似た形状であるが、関節窩が浅く、関節頭の突出が小さいもの。(中手指節関節、膝関節)

8.鞍関節:関節窩の形が鞍状のもの。(母指の手根中手関節)

9.平面関節:関節面が平坦で、横滑りによって運動する。(椎間関節、手根間関節、リスフラン関節)

10.半関節:関節の形状をしているが、ほとんど動かないもの。(仙腸関節、脛腓関節)

26 脳頭蓋の種類と特徴

頭蓋骨は、脳を保護する脳頭蓋と、顔面を構成する顔面頭蓋からなる。大部分の骨は縫合や軟骨によってかたく結合している。

脳頭蓋は、前頭骨1個、頭頂骨2個、側頭骨2個、後頭骨1個、蝶形骨1個

脳が入る部分(頭蓋腔)はドーム状の頭蓋冠と床の頭蓋底からなる。頭蓋底を上から見たものが内頭蓋底、下から見たものが外頭蓋底である。

前頭骨:頭蓋冠の前方・内頭蓋底の前方。

頭頂骨:頭蓋冠の天上。

後頭骨:頭蓋冠の後方・内頭蓋底の後方。

広報に盛り上がる隆起を外後頭隆起、その下の大きな孔を大後頭孔という。大後頭孔には脊髄が通る。

大後頭孔の両側にある後頭顆と環椎の上関節突起で環椎後頭関節を構成する。

側頭骨:頭蓋冠の側方・内頭蓋底の一部。中耳の入る部分を鼓室、内耳が入る部分を錐体という。錐体を頸動脈管が貫通する。他に乳様突起、茎状突起などがみられる。

蝶形骨:内頭蓋底の中央。トルコ鞍、大翼・小翼、翼状突起

前頭骨と頭頂骨の間の結合:冠状縫合

左右の頭頂骨の間の結合:矢状縫合

頭頂骨と側頭骨の間の結合:鱗状縫合

頭頂骨と後頭骨の間の結合:人字縫合(ラムダ縫合)

小児の頭蓋は結合が不十分な箇所があり、それらを泉門という。

大泉門:前頭骨と頭頂骨の間(冠状縫合と矢状縫合の間)

小泉門:頭頂骨と後頭骨の間(矢状縫合とラムダ縫合の間)

27 顔面頭蓋の種類と特徴

篩骨1個、鼻骨2個、涙骨2個、下鼻甲介2個、上顎骨2個、頬骨2個、口蓋骨2個、鋤骨1個、下顎骨1個、舌骨1個

篩骨:眼窩の間、鼻腔の後ろにある骨。嗅神経が篩骨の篩板を通る。前頭骨に鶏冠が突出する。

鼻骨:鼻根部を作る骨。

涙骨:眼窩の下内側にあり、涙嚢を入れる。

下鼻甲介:鼻腔の中にある、三つの隆起の一つ。上鼻甲介、中鼻甲介もあるが、骨には数えない。

上顎骨:顔面の中央を占める骨。前頭骨や頬骨などと結合する突起をもつ。

頬骨:頬にある星形の骨。側頭骨の頬骨突起と共に頬骨弓を作る。

口蓋骨:口腔の天上(後方)にある骨。

鋤骨:鼻中隔(左右の鼻腔を隔てる)を作る。

下顎骨:下顎体と下顎枝よりなる。下顎体の前端を頤(オトガイ)という。オトガイの両脇にはオトガイ孔、下顎枝の内面には下顎孔が開きこの中を下顎管が通る。下顎体から下顎枝への移行部の下端を下顎角という。下顎枝からは、2本の突起(関節突起・筋突起)が出る。

舌骨:甲状軟骨(喉仏)の上方にある骨。他の顔面頭蓋からは遊離しており、筋の付着によって位置を保っている。

顎関節:側頭骨(下顎窩)と下顎骨(下顎頭)との楕円関節。関節円板を有する。

28 頭蓋底から観察できるもの

内頭蓋底は、三つの窩、前頭蓋窩、中頭蓋窩、後頭蓋窩からなる。

前頭蓋窩は前頭骨、篩骨、蝶形骨の小翼からなる。篩骨の鶏冠・篩板、視神経管が観察できる。

中頭蓋窩は、蝶形骨の大翼、側頭骨の錐体前面からなる。トルコ鞍、下垂体窩、上眼窩裂、正円孔、卵円孔、棘孔、破裂孔が観察できる。

後頭蓋窩は、側頭骨の錐体後面と後頭骨からなる。内耳孔、頸静脈孔、舌下神経管、大後頭孔が観察できる。

外頭蓋底の前方では硬口蓋が見られる(上顎骨と口蓋骨)。

鼻腔が咽頭に開口する部分は、左右1対の後鼻孔である。蝶形骨の翼状突起、側頭骨の乳様突起、茎乳突孔、茎状突起、下顎窩などが観察できる。

29 眼窩・鼻腔

眼窩を構成する骨は、頬骨、篩骨、口蓋骨、蝶形骨、上顎骨、前頭骨、涙骨(きょうしと、こうちょう、うえにも、まえにも、なみだなし)

鼻腔を左右に分ける部分を鼻中隔といい、篩骨・鋤骨によって作られる。

鼻腔の外側壁からは、上鼻甲介・中鼻甲介・下鼻甲介が内腔に向かって垂れ下がっており、それぞれの下にある道を上鼻道・中鼻道・下鼻道という。

鼻涙管は眼窩と鼻腔をつなぐ管で、下鼻道に開口している。

副鼻腔とは、鼻腔周囲の骨内にある空洞のことで、全ての副鼻腔は鼻腔とつながる。上顎洞、前頭洞、篩骨洞は中鼻道とつながり、蝶形骨洞は上鼻道につながる。

30 筋の総論

筋の作用には、運動、体温の発生、筋ポンプがある。

筋の両端は腱という結合組織になり骨に付着する(両端が腱ではなく靱帯になっているものもある)。筋が収縮(短くなる)・弛緩(長くなる)ことによって、関節を軸にして骨が運動する。

筋の両端のうちで、固定されているか動きの少ない方を起始、他方を停止という。体幹では脊柱または骨盤に近い側が起始、遠い側が停止となる。

筋の形状によって、紡錘筋、羽状筋などに分類される。

筋が一つの関節を越えて隣の骨に付着する場合を、単関節筋、二つの関節を越える場合は2関節筋、それ以上の関節を越える場合は多関節筋という。

筋を包む組織を筋膜(または筋鞘)、腱を包む組織を腱膜(または腱鞘)という。

筋と骨との間に入り摩擦を防ぐ結合組織を滑液包という。

関節に対する作用の仕方によって主力筋、拮抗筋、協力筋に分類される。

31 胸部の筋

胸部の筋は浅胸筋、深胸筋、横隔膜に分類される。

浅胸筋は胸壁から起こって肩甲骨または上腕骨に付着する筋で、大胸筋、小胸筋、鎖骨下筋、前鋸筋がある。

大胸筋は前胸部・腋窩の前壁を構成する大きな筋で、鎖骨・胸骨・肋軟骨から起始し、大結節稜に停止する。上腕の屈曲・内転・内旋に関与する。胸筋神経に支配される。

小胸筋は大胸筋の深部に隠れる小さな筋で、第2〜5肋骨から起始し、烏口突起に停止する。胸筋神経に支配される。

鎖骨下筋は、第1肋骨から起始し、鎖骨に停止する。鎖骨下筋神経に支配される。

前鋸筋は側胸部の筋で、第1〜9肋骨から起始し、肩甲骨内縁に停止する。長胸神経に支配される。

深胸筋は肋間や肋骨周囲にあって、呼吸の補助筋として働く。

表層から外肋間筋、内肋間筋、最内肋間筋、肋下筋、胸横筋、肋骨挙筋がある。いずれも肋間神経に支配される。外肋間筋と肋骨挙筋は吸気時に働く吸気筋であり、その他の筋は呼気筋である。

横隔膜は胸腔と腹腔を隔てる筋肉でできたドーム状の隔壁で、収縮により胸腔を広げ空気を取り入れる、重要な吸気筋である。腰椎・肋骨・胸骨から起始し、中央の腱中心に停止する。横隔神経に支配される。横隔膜には、胸腔と腹腔を連絡する三つの孔がある。

大動脈裂孔:下行大動脈、胸管、奇静脈が通る。

食道裂孔:食道と左右の迷走神経が通る。

大静脈孔:下大静脈が通る。

32 腹部の筋

腹部の筋は前腹筋、側腹筋、後腹筋に分類される。

前腹筋には腹直筋、錐体筋がある。腹直筋は、恥骨結合部から起始し、第5〜7肋軟骨に停止する。肋間神経に支配され、体幹の前屈に関与する。筋の表面に見られる3〜4本の横溝は腱画という。腹直筋を包む膜を腹直筋鞘といい、左右の腹直筋鞘は正中部で癒合し白線という強靱な結合組織を作る。

側腹筋には表層から、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋がある。全て肋間神経に支配され、体幹の前屈・側屈に関与する。

外腹斜筋は第5〜12肋骨外面から前下方に、内腹斜筋は腸骨稜から前上方に、腹横筋は第7〜12肋軟骨内面から前方に走る。

鼠径靱帯は、上前腸骨棘から恥骨結節に張りわたされた靱帯で、外腹斜筋の停止腱膜が発達したものである。鼠径靱帯の内側では鼠径管という管が骨盤壁を貫く。鼠径管の中を、男性では精管・精索が、女性では子宮円索などが通る。

後腹筋には腰方形筋がある。腰方形筋は、腸骨稜から起始し、第12肋骨に停止する。腰椎の後屈・側屈に関与する。

33 会陰筋

会陰筋(骨盤底筋ともいう)は骨盤の下面にある筋群で、骨盤内臓を支え肛門や尿道の開閉などを調節する。肛門挙筋、外肛門括約筋、外尿道括約筋などがある。

34 背部の筋

浅背筋と深背筋(棘肋筋、固有背筋)、後頭下筋に分類される。

浅背筋は脊柱から起始し、肩甲骨または上腕骨に停止する筋群。いずれも上肢の運動に関与する重要な筋群。

僧帽筋、広背筋、菱形筋、肩甲挙筋がある。

僧帽筋は、外後頭隆起・項靱帯・胸椎棘突起から起始し、肩甲棘・肩峰・鎖骨外側1/3に停止する。肩甲骨の挙上・内転に関与し、副神経に支配される。

広背筋は、第7胸椎〜仙骨までの棘突起・腸骨稜から起始し、小結節稜に停止する。肩関節の伸展・内転・内旋に関与し、胸背神経に支配される。

菱形筋は、第6頸椎〜第4胸椎から起始し、肩甲骨内縁・下角に停止する筋。このうち、頸椎から起始する筋は小菱形筋、胸椎から起始する筋を大菱形筋という。肩甲骨の内転に関与し、肩甲背神経に支配される。

側腹部で、外腹斜筋・広背筋・腸骨稜で囲まれる部分は抵抗が弱い部分で、腰三角と呼ばれる。

肩甲骨下角の下方で僧帽筋・広背筋・菱形筋で囲まれる部分を聴診三角という。

肩甲挙筋は、第1〜4頸椎横突起から起始し、肩甲骨上角に停止する。肩甲骨の挙上に関与し、肩甲背神経に支配される。

深背筋の棘肋筋は、呼吸の補助筋として働く小筋で、棘突起と肋骨の間に見られる。上後鋸筋(吸気筋)、下後鋸筋(呼気筋)がある。

深背筋の固有背筋は背部深層の強い筋群で脊柱及び頭部の後屈に関与する。いずれも脊髄神経後枝に支配される。

板状筋、脊柱起立筋、横突棘筋がある。

板状筋は、下部頸椎(第4〜第7)及び上部胸椎(第1〜第5)棘突起から起始し、乳様突起及び1・2頸椎横突起に停止する。

脊柱起立筋は、筋線維の走行の違いにより、外側から腸肋筋、最長筋、棘筋に区別される。仙骨・下部腰椎棘突起・腸骨稜から起始し、肋骨、胸椎・頸椎棘突起に停止する。

横突棘筋は横突起から上部棘突起に向かって走る筋群で椎骨を支持する。特に頭頸部では頭半棘筋が発達する。

後頭下筋は後頭骨から第2頸椎の間に見られる筋で後頭骨を支持する(後頭直筋、頭斜筋など)。

35 上肢の筋

上肢の筋は上肢帯の筋、上腕の筋(屈筋・伸筋)、前腕の筋(屈筋・伸筋)、手の筋に分類される。

上肢帯の筋は肩甲骨から起始し、上腕骨に停止する。上腕の運動に関与する。

三角筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、大円筋、肩甲下筋がある。

三角筋は、肩甲棘・肩峰・鎖骨外側1/3から起始し、三角筋粗面に停止する。肩関節の屈曲・外転・伸展に関与し、腋窩神経に支配される。

棘上筋は、棘上窩から起始し、大結節に停止する。肩関節の外転に関与し、肩甲上神経に支配される。

棘下筋は、棘下窩から起始し、大結節に停止する。肩関節の外旋に関与し、肩甲上神経に支配される。

小円筋は、肩甲骨外縁から起始し、大結節に停止する。肩関節の外旋に関与し、腋窩神経に支配される。

大円筋は、肩甲骨下角から起始し、小結節稜に停止する。肩関節の伸展・内転・内旋に関与し、肩甲下神経に支配される。

肩甲下筋は、肩甲下窩から起始し、小結節に停止する。肩関節の伸展・内転・内旋に関与し、肩甲下神経に支配される。

棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つは、肩関節を補強する重要な筋群で、回旋筋腱板と呼ばれる。

上腕骨に対する停止別の分類

大結節:棘上筋・棘下筋・小円筋

大結節稜:大胸筋

小結節:肩甲下筋

小結節稜:広背筋、大円筋

神経支配別の分類

腋窩神経:三角筋、小円筋

肩甲上神経:棘上筋・棘下筋

肩甲下神経:大円筋・肩甲下筋

肩甲背神経:菱形筋・肩甲挙筋

上腕の屈筋は上腕前面の筋で、上腕二頭筋、上腕筋、烏口腕筋があり、いずれも筋皮神経に支配される。

上腕二頭筋は、肩甲骨(関節上結節、烏口突起)から起始し、橈骨(橈骨粗面)に停止する。肘関節の屈曲・回外、肩関節の屈曲に関与する。

上腕筋は、上腕骨(前面下部)から起始し、尺骨(尺骨粗面)に停止する。肘関節の屈曲に関与する。

烏口腕筋は、烏口突起から起始し、上腕骨に停止する。肩関節の屈曲・内転に関与する。

上腕の伸筋は上腕後面の筋で上腕三頭筋がある。伸筋は上腕・前腕共に全て橈骨神経に支配される。

上腕三頭筋は、肩甲骨(関節下結節)・上腕骨から起始し、尺骨(肘頭)に停止する。肩関節・肘関節の伸展に関与する。

前腕屈筋群は前腕前面の筋で、尺側手根屈筋と深指屈筋の一部以外は全て正中神経に支配される。

表層は、橈側から順に、円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋、浅指屈筋、尺側手根屈筋の順に並ぶ。腕橈骨筋は前弯前面にあるが屈筋には含まれない。表層の筋は主に上腕骨内側上顆から起始し、手関節を越えて手根骨や指骨に停止する。

深層には、深指屈筋、長母指屈筋、方形回内筋がある。方形回内筋は円回内筋と共に前腕の回内に関与する。

手根部の舟状骨と豆状骨の間には屈筋支帯がアーチ状に張っていて、屈筋支帯と手根骨の間には手根管という隙間ができる。この手根管の中を正中神経、橈側手根屈筋、長母指屈筋、浅指屈筋、深指屈筋が通る。

前腕伸筋群は前腕後面の筋で全て橈骨神経に支配される。腕橈骨筋と回外筋以外は伸筋支帯の下を通り手の骨に停止する。

表層は、橈側から順に、腕橈骨筋、長・短橈側手根伸筋、総指伸筋、小指伸筋、尺側手根伸筋が並ぶ。表層の筋は基本的に上腕骨外側上顆から起始し、手関節を越えて手の骨に停止する。

腕橈骨筋は、上腕骨外側から起始し、橈骨茎状突起に停止する。伸筋群の一つであるが肘関節の屈曲に関与する。

深層には、長母指伸筋、短母指伸筋、長母指外転筋、示指伸筋、回外筋がある。

手の筋は、母指球筋、中手筋、小指球筋に分類される。

母指球筋:橈側から、短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、母指内転筋

母指内転筋と短母指屈筋の一部は尺骨神経支配、それ以外は正中神経に支配される。

中手筋:掌側・背側骨間筋、虫様筋

虫様筋の一部は正中神経、それ以外は尺骨神経に支配される。

小指球筋:尺側から、短掌筋、小指外転筋、短小指屈筋、小指対立筋

小指球筋は、全て尺骨神経に支配される。

36 下肢の筋

下肢の筋は、下肢帯の筋(内寛骨筋・外寛骨筋)、大腿の筋(屈筋・伸筋・内転筋)、下腿の筋(屈筋・伸筋・外側筋)、足の筋に分類される。

下肢帯の内寛骨筋は寛骨の内面に付く筋で腸腰筋がある。

腸腰筋は、腸骨・腰椎の前面から起始し、大腿骨小転子に停止する。大腿神経に支配され、股関節の屈曲に関与する。腰椎前面から起始する筋を大腰筋、腸骨前面から起始する筋を腸骨筋として分けることもある。

鼠径靱帯の下には、筋裂孔・血管裂孔があり、筋裂孔を腸腰筋と大腿神経が、血管裂孔を大腿動・静脈が通る。

下肢帯の外寛骨筋は寛骨の外面に付く筋で、大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、梨状筋、内閉鎖筋、上・下子筋、大腿方形筋がある。

大殿筋は、仙骨後面・腸骨外面から起始し、大腿骨殿筋粗面に停止する。下殿神経に支配され、股関節の伸展に関与する。

中・小殿筋は、腸骨外面から起始し、大腿骨大転子に停止する。上殿神経に支配され、股関節の外転に関与する。

大腿筋膜張筋は、上前腸骨棘から起始し、腸脛靱帯に停止し、脛骨外側顆に終わる。上殿神経に支配され、股関節の屈曲・外転、膝関節の伸展に関与する。

梨状筋は、仙骨前面から起始し、大腿骨大転子に停止する。仙骨神経叢に支配され、股関節の外旋に関与する。

梨状筋は大坐骨孔を梨状筋上孔、梨状筋下孔に分ける。

梨状筋上孔を上殿神経・上殿動・静脈が、梨状筋下孔を下殿神経・坐骨神経・陰部神経・下殿動・静脈が通る。

大腿屈筋群は大腿後面にある筋で、大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋がある。三つの筋は協調して働き、ハムストリングスと呼ばれる。大腿二頭筋の短頭以外は全て脛骨神経に支配され、股関節の伸展と膝関節の屈曲に関与する。

大腿二頭筋は、坐骨結節・大腿骨粗線外側から起始し、腓骨頭に停止する。

半腱様筋は、坐骨結節から起始し、脛骨粗面内側に停止する。

半膜様筋は、坐骨結節から起始し、脛骨内側顆の後面に停止する。

大腿伸筋群は大腿前面の筋群で、縫工筋・大腿四頭筋がある。全て大腿神経に支配される。

縫工筋は、上前腸骨棘から起始し、脛骨粗面内側に停止する。股関節の屈曲・外転・外旋、膝関節の屈曲に関与する。

大腿四頭筋は、起始の違いにより、4つの筋に分けられる。大腿直筋は腸骨から起始し、外側広筋、中間広筋、内側広筋は大腿骨から起始する。4つの筋は大腿下部で合して膝蓋腱(膝蓋靱帯)となり、膝蓋骨を越え脛骨粗面に停止する。膝関節の伸展に関与(大腿直筋は、股関節の屈曲にも関与する)

大腿内転筋群は大腿内側の筋群で、長・短・大内転筋、薄筋、恥骨筋、外閉鎖筋がある。閉鎖神経に支配され、股関節の内転に関与する。恥骨筋のみ大腿神経に支配される。

薄筋以外は、恥骨から起始し、大腿骨内側に停止する。

薄筋は、恥骨から起始し、脛骨粗面内側に停止する。

長内転筋と縫工筋の交差部から下に続くトンネルを内転筋管といい、内転筋裂孔から膝窩に続く。大腿動・静脈、伏在神経が通る。

縫工筋、半腱様筋、薄筋は、大腿の前面・後面・内面の筋であるが、同じ部位(脛骨粗面内側)に停止する。これら三つの筋は鵞足と呼ばれる。

縫工筋、長内転筋、鼠径靱帯で囲まれる領域には、大腿動脈、大腿静脈、リンパ管や神経が通り、大腿三角と呼ばれる。

 下腿屈筋群は下腿後面の筋群で、下腿三頭筋、後脛骨筋、膝窩筋、足底筋、長母指屈筋、長指屈筋がある。全て脛骨神経に支配され、足関節の屈曲(底屈)に関与する。下腿三頭筋と膝窩筋以外は屈筋支帯の下(足根管)を通り足部の骨に起始する。

下腿三頭筋は、起始の違いにより、腓腹筋、ヒラメ筋に分類される。腓腹筋は、大腿骨の外側上顆・内側上顆から起始し、ヒラメ筋は、脛骨後面から起始する。両筋は、下腿下部で合してアキレス腱となり、踵骨隆起に停止する。

 膝窩筋は大腿骨外側上顆から起始し、脛骨後面に停止する。

後脛骨筋は、足関節の内反に関与。

下腿伸筋群は下腿前面の筋群で、前脛骨筋、長母指伸筋、長指伸筋などがある。主に脛骨・腓骨の前面から起始し、足根骨・中足骨などに停止する。全て深腓骨神経に支配され、足関節の伸展(背屈)に関与する。伸筋支帯の下を通る。

下腿外側筋群は下腿外側面の筋群で、長腓骨筋、短腓骨筋がある。腓骨の外側から起始し、足根骨・中足骨などに停止する。全て浅腓骨神経に支配され、足関節の外販に関与する。

足の筋は、足背筋、母指球筋、中足筋、小指球筋に分けられる。足背筋は深腓骨神経、足底の筋は内側・外側足底神経に支配される。

足背筋:短母指伸筋、短指伸筋

母指球筋:母指側から母指外転筋、短母指屈筋、短母指内転筋

中足筋:骨間筋、虫様筋、短指屈筋、足底方形筋

小指球筋:小指側から小指外転筋、短小指屈筋

37 頭部の筋

頭部の筋は、浅頭筋(表情筋)と深頭筋(咀嚼筋)に分類される。

表情筋は頭蓋骨から起始し顔面の皮膚に停止する筋(皮筋)で顔面部の多くを占める。全て顔面神経に支配される。

代表的な筋としては眼輪筋、口輪筋、頬筋、後頭筋、前頭筋などがある。

咀嚼筋は、下顎骨に停止する筋で下顎の運動(咀嚼)に関与する。下顎神経に支配される。

咀嚼筋:咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋

咬筋は頬骨の下で、側頭筋はこめかみで触察することができる。

38 頸部の筋

頸部の筋は、浅頸筋、側頸筋、前頸筋、後頸筋に分類される。

浅頸筋に分類されるのは広頸筋のみで、これは人体で最大の皮筋である。表情筋と同様、顔面神経に支配される。

側頸筋に分類されるのは胸鎖乳突筋のみで、この筋は胸骨と鎖骨から起始し乳様突起に停止する。副神経に支配され、頸部の屈曲・伸展・回旋・側屈に関与する。

前頸筋は舌骨上筋と舌骨下筋に分類される。舌骨上筋は咀嚼・嚥下運動を助け、舌骨下筋は舌の運動、発声を助ける。

舌骨上筋:顎二腹筋、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、茎突舌骨筋

舌骨下筋:肩甲舌骨筋、胸骨舌骨筋、甲状舌骨筋、胸骨甲状筋

後頸筋には斜角筋と椎前筋がある。

斜角筋は頸椎横突起から起始し第1・2肋骨に停止する。前・中・後と三筋がある。特に前斜角筋・中斜角筋と第1肋骨の間は斜角筋隙といい、腕神経叢と鎖骨下動脈が通る。

頸部で重要な三角として以下のようなものがある。

後頸三角(外側頸三角):鎖骨、胸鎖乳突筋、僧帽筋→副神経、腕神経叢、頚神経叢などが通る。

頸動脈三角:顎二腹筋後腹、胸鎖乳突筋、肩甲舌骨筋→総頸動脈が通る。

顎下三角:顎二腹筋前腹・後腹、下顎骨→顎下腺が通る。

39 循環系の概要

循環系は、血液やリンパの輸送路である。心臓、脈管系(動脈系・静脈系)、リンパ系からなる。

体循環(大循環):心臓→動脈→細動脈→毛細血管→組織→毛細血管→細静脈→静脈→心臓

肺循環(小循環):心臓→肺動脈→毛細血管→肺→毛細血管→肺静脈→心臓

酸素に富んだ鮮紅色の血液を動脈血、二酸化炭素を多く含む赤黒い血液を静脈血という。

血管は動脈・静脈共に、外膜・中膜・内膜からなる。内膜は単層扁平上皮、中膜は平滑筋と弾性線維、外膜は線維性の結合組織である。動脈は静脈に比べ中膜が発達している。また大動脈では平滑筋より弾性線維の量が多く弾力性に優れる。

静脈には静脈弁があり、血液の逆流を防ぐ。また近接する動脈や筋肉の収縮により、静脈の環流が促される(筋ポンプ)。

ある血管と別の血管がつながることを吻合という。一つの血管が閉塞されても吻合する別の血管によって組織が栄養される場合、その血行路を側副循環路という。脳・心臓・肺・脾臓・腎臓などは吻合がほとんど見られず(終動脈)、梗塞を起こしやすい。

40 心臓

心臓は、左右の肺の間(縦隔)に位置する。

心臓は心膜という二重の膜に包まれる。心臓の壁は内側から、心内膜、心筋層、心外膜からなる。心内膜の一部は、突出して弁を作る。

左心房、左心室、右心房、右心室の4つの部分からなる。

心尖、心底、左・右心耳が見られる。体表からの心尖の位置は、左第5肋間、鎖骨中線。

左心室からは大動脈(1本)が、右心室からは肺動脈(1本)が出る。左心房に肺静脈(4本)が入り、右心房には大静脈(2本、上・下大静脈)が入る。

左心房と左心室の間の弁は二尖弁、右心房と右心室の間の弁は三尖弁である。また、大動脈弁は半月弁とも呼ばれる。

刺激伝導系とは、1カ所から起こった刺激が効率よく心臓全体に伝わる経路で、洞房結節、房室結節、ヒス束、右脚・左脚、プルキンエ線維からなる。

心臓は上行大動脈から出る左右の冠状動脈によって栄養される(心臓の栄養血管)。この血管が閉塞すると、狭心症や心筋梗塞となる。主に左冠状動脈は心臓の前面を、右冠状動脈は心臓の後面を栄養する。静脈血は冠状静脈洞に集まり右心房に入る。 41 動脈系

心臓の左心室から出た上行大動脈は、大動脈弓、下行大動脈と名を変える。下行大動脈は横隔膜を境に、胸大動脈と腹大動脈に区分される。

大動脈弓からは、頭と腕に血液を送る3本の動脈、腕頭動脈・左総頸動脈・左鎖骨下動脈が出る。腕頭動脈からは、右総頸動脈・右鎖骨下動脈が出る。

左右の総頸動脈は、甲状軟骨(喉仏)の高さで、外頸動脈・内頸動脈に分かれる。主に外頸動脈は顔面部を栄養し(顔面動脈、浅側頭動脈、舌動脈、顎動脈などを出す)、内頸動脈は脳の前部と眼を栄養する(前・中大脳動脈、眼動脈・網膜中心動脈などを出す)。

左右の鎖骨下動脈は、第1肋骨の下で腋窩動脈、大胸筋の下縁で上腕動脈と名を変え、前腕では橈骨動脈・尺骨動脈に分かれる。橈骨動脈の拍動は、橈骨茎状突起の内側で観察することができる。

鎖骨下動脈からは胸壁を栄養する動脈(内胸動脈・肋頸動脈など)と共に、左右1対の椎骨動脈が出る。椎骨動脈は頸椎の中を通り脳に入った後、1本の脳底動脈となり、脳の後部を栄養する(後大脳動脈などを出す)。

胸大動脈からは、気管支動脈、肋間動脈が出る。気管支動脈は肺を栄養する(肺の栄養血管)。

腹大動脈からは、腹腔動脈・上腸間膜動脈・下腸間膜動脈・腎動脈・精巣(または卵巣)動脈・腰動脈が出る。

腹大動脈は第4腰椎の高さで、左右の総腸骨動脈となり、総腸骨動脈は外・内腸骨動脈に分かれる。

外腸骨動脈は下肢に向かい、内腸骨動脈は骨盤内臓などを栄養する。

外腸骨動脈は鼠径靱帯の下(血管裂孔)を通り大腿動脈となる。膝窩の直前で膝窩動脈となり、下腿では前脛骨・後脛骨動脈に分かれる。後脛骨動脈からは腓骨動脈が出る。また、前脛骨動脈は足背動脈に、後脛骨動脈は足底動脈になる。

☆内頸動脈・脳底動脈の枝が脳を栄養しているが、この二つは後交通動脈によって連絡する。また左右の前大脳動脈は前交通動脈によって連絡する。(大脳動脈輪)

42 静脈系

静脈は基本的に動脈と同じ経路を走る(伴行静脈・深静脈)が、それとは別に皮下を走る皮静脈があり、両者は頻繁に吻合する。

心臓の右心房には上・下大静脈が流入する。

頭部の血液を集める内頸静脈と上肢の血液を集める鎖骨下静脈が合して(静脈角)、腕頭静脈となり、左右の腕頭静脈が合して上大静脈となる。

 胸壁からの血液を集める静脈として、脊柱の右側を奇静脈が、左側を半奇静脈が上行する。半奇静脈は奇静脈に、奇静脈は上大静脈に流入する。

上肢には深静脈の他に、上肢外側を走る橈側皮静脈、上肢内側を走る尺側皮静脈、前腕中央を走る前腕正中皮静脈があり、この3つは肘窩で肘正中皮静脈によって吻合する。橈側皮静脈は三角胸筋溝を通り腋窩静脈に、尺側皮静脈は上腕静脈に流入する。

下肢には深静脈の他に、下腿外側を走る小伏在静脈、下腿・大腿内側を走る大伏在静脈の皮静脈がある。前者は膝窩静脈に、後者は大腿静脈に流入する。

脾臓からの血液を集める脾静脈、腸管からの血液を集める上腸間膜静脈、下腸間膜静脈が合して門脈となり、肝臓に入る。肝臓では破壊された赤血球の処理、吸収した栄養素の処理などが行われる。処理された血液は肝静脈から下大静脈に入る。

43 胎児循環

胎児の状態では肺・肝臓の機能が必要でないため、特殊な循環経路をもつ。肺をバイパスする卵円孔(心房中隔の孔)、ボタロー管(動脈管ともいう、肺動脈と大動脈弓をつなぐ)、肝臓をバイパスするアランチウス管(静脈管ともいい、臍静脈と下大静脈をつなぐ)がある。それらの孔・管は生後結合組織に置き換えられ機能しなくなる。

胎児を栄養した血液(静脈血)は2本の臍動脈(内腸骨動脈から出る)を通って、母胎の胎盤の絨毛で物質交換が行われる。動脈血は1本の細静脈→門脈に合流→肝臓をバイパスするアランチウス管を通って下大静脈に流入する。

44 リンパ系と関連臓器

間質液や毛細血管に吸収できなかった血中成分などを循環させる経路。生体防御系としても重要。

毛細リンパ管、深リンパ管、浅リンパ管など、基本的に静脈と同じ経路を走るが、2つの大きな本管がある。

右上半身からのリンパは右リンパ本管に、左上半身と左右下半身からのリンパは胸管に集められ、静脈角で上大静脈に合流する。

特殊なものとして小腸粘膜にある毛細リンパ管を中心乳糜腔といい、食物から吸収した脂質(乳糜)を吸収する。

リンパ管の中にはリンパ節という白血球の集まる濾過装置があり、異物や細菌を除去するのに働く(腋窩リンパ節、鼠径リンパ節など)。

脾臓は左上腹部で横隔膜の下に接する。古い赤血球の破壊などを行う。内部は血液で満たされた赤脾髄、白血球の集まる白脾髄からなる。

扁桃は咽頭の内面に、パイエル板は小腸内面にあるリンパ小節で、消化管に入った細菌などから生体を防御する。

胸腺は、縦隔内で胸骨の後方にある左右1対の器官で、ここで細胞性免疫を担うTリンパ球の教育が行われる。幼児期の発達が著しく思春期以降は退化していく。胸腺はリンパ系の中で、発生的にも機能的にも上位に位置するため第1次リンパ性器官ともいわれる。

45 内臓系

内蔵は、呼吸器、消化器、泌尿器、生殖器、内分泌に分けられる。

胃や腸のような管・袋状の臓器を中空性臓器、肝臓や腎臓のような中身の詰まった臓器を実質性臓器という。

46 呼吸器系の概要

呼吸器は、鼻腔、咽頭、喉頭、気管、気管支、肺からなる。

鼻腔は口腔と共に体外からの空気の出入り口となる。鼻根、鼻翼、鼻尖などが区別される。鼻腔は4つの副鼻腔と交通し、後部は後鼻孔となって咽頭に開口する。

咽頭は消化器と呼吸器を兼ねる器官である。

喉頭は食道の前方にあり、4種類の軟骨からなる。甲状軟骨(のどぼとけ)、輪状軟骨、左右の披裂軟骨、喉頭蓋軟骨で、甲状軟骨と披裂軟骨の間に声帯が張っている。声帯の間を空気が通り声帯が振動することで声が出る。

気管は、第6頸椎の高さから始まり第5胸椎の高さで左右の気管支に分かれる。前面は気管軟骨で保護されるが、後面には軟骨がない(膜性部)。

右気管支は左気管支に比べ、垂直に近く太い。

左右の気管支は葉気管支となり肺に入る。更に細かく分岐を繰り返し(区域気管支、細気管支、呼吸細気管支など)、肺胞で酸素と二酸化炭素を交換する。

肺は二重の胸膜によって包まれる。左肺は斜裂により2葉に、右肺は水平裂、斜裂により3葉に分けられる。内側中央の肺門を気管支・気管支動脈・肺動脈・肺静脈などが通る。肺尖は鎖骨の上2〜3センチまで突出する。

47 消化器系の概要

消化器は口腔、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(盲腸、結腸、直腸)に区分される。食道以降は食物は蠕動運動によって直腸まで運ばれる。消化管の壁は粘膜、筋層、鞘膜(または外膜)で構成される。

口腔は歯列を境に、口腔前庭と固有口腔に区分される。

成人の歯は32本で、切歯2、犬歯1、小臼歯2、大臼歯3の8*4セットである。乳歯は20本で、切歯2、犬歯1、大臼歯2の5*4セット。歯の主体は象牙質という固い組織で構成され、歯冠はエナメル質、歯根はセメント質で覆われる。歯の内部を歯髄といい、歯髄腔を感覚神経(上歯は上顎神経、下歯は下顎神経)が通る。

舌は、舌尖、舌体(舌背)、舌根に区分され、4種類の乳頭が見られる。(糸状乳頭、茸状乳頭、有郭乳頭、葉状乳頭)舌体と舌根の間(有郭乳頭の後方)には分界溝という溝がある。

口腔には三つの唾液腺が開口する。最も大きな耳下腺は口腔前庭(上第2大臼歯の対向面)に、舌下腺・顎下腺は固有口腔(舌下部)に開口する。舌下腺・顎下腺は顔面神経に、耳下腺は舌咽神経に支配される。

口蓋は前部の硬口蓋と後部の軟口蓋に分かれ、軟口蓋の後部天上には口蓋垂が垂れ下がっている。

咽頭は、口腔、鼻腔、中耳と交通する。口腔から咽頭にかけて扁桃があり、鼻腔や口腔から入ってきた異物(細菌・ウイルスなど)に反応する。(舌扁桃、口蓋扁桃、咽頭扁桃、耳管扁桃)

食道は第6頸椎の高さから始まり、横隔膜の食道裂孔を通り胃に到達する。長さ約25センチ。食道の表面は重層扁平上皮で、筋層は上部1/3が横紋筋、下部1/3が平滑筋である。

胃は、噴門、幽門、胃底、胃体に区分される。

胃は深層から粘膜、筋層、漿膜からなる。更に筋は3層構造になっており、深層から斜走筋、輪走筋、縦走筋となる。

外側の弯曲を大弯、内側の弯曲を小弯、小弯の中央の角を角切痕という。大弯からは大網、小弯からは小網という膜が垂れ下がる。

幽門と十二指腸の間には、幽門括約筋という平滑筋があり、胃の内容物を十二指腸に送る調整をする。

小腸は、十二指腸・空腸・回腸に区分される。粘膜、筋層(内側から輪走筋、縦走筋)、漿膜からなる。

十二指腸は、膵臓の頭部を囲み、膵管・総胆管が開口する(十二指腸乳頭)。またこの部にはオッディ括約筋がある。長さ約25センチ。

空腸・回腸では、輪状ヒダ、腸絨毛、パイエル板(集合リンパ小節)が見られる。空・回腸合わせた長さは約6メートル。

大腸は、盲腸・結腸・直腸に区分される。

回腸と盲腸の間には逆流を防ぐための回盲弁がある。盲腸からは虫垂が垂れ下がる。

結腸は、上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸に区分され、結腸紐、半月ヒダ、結腸膨起、腹膜垂が見られる。長さ約1.5メートル。

直腸の表面は重層扁平上皮で、肛門で外部と交通する。長さ約20センチ。肛門には自律神経により調節される内肛門括約筋と意識的に動かすことのできる外肛門括約筋がある。

肝臓は右上腹部にあり4つの葉(右葉、左葉、方形葉、尾状葉)に区分される。右葉は左葉に比べ大きい。肝臓は間膜によって胃や横隔膜ともつながれている。

肝臓の栄養血管である固有肝動脈、脾臓や消化管からの血液を集める門脈、肝臓から胆汁を運ぶ肝管が肝臓下面にある肝門を通る。

肝臓は肝小葉という単位で構成されており、肝小葉の中心に肝細胞がある。固有肝動脈や門脈によって運ばれてきた血液は、洞様毛細血管を介して肝細胞で各種の処理(合成・分解・解毒など)が行われ、中心静脈→肝静脈→下大静脈という経路で心臓に戻る。

肝臓の前下縁には胆嚢が付く。胆汁は肝臓の肝細胞で作られ、毛細胆管→小葉間胆管→肝管→胆嚢管で胆嚢に運ばれ、胆嚢管→総胆管→十二指腸乳頭に放出される。

膵臓は胃の後方から左上腹部にある。右側から膵頭、膵体、膵尾に区分され、主に消化液(膵液)を合成している。また特に膵尾では、膵島(ランゲルハンス島)と呼ばれる内分泌器官があり、インスリンなどのホルモンを合成している。

48 泌尿器系の概要

泌尿器は血液から尿を精製し体外へ排出する系で、腎臓、尿管、膀胱、尿道よりなる。男性の尿道は泌尿器と生殖器を兼ねる。

右には肝臓があるため右腎は左腎に比べ若干低い位置にある。腎臓の内側は血管・尿管などが出入りする腎門がある。

腎動脈から腎臓に入った血液は皮質にある糸球体で濾過されボーマン嚢に流れる。その後、近位尿細管、ヘンレループ、遠位尿細管、集合管で再吸収や分泌が行われ、腎臓の出口である腎盂で尿管へ移行する。糸球体とボーマン嚢を合わせて腎小体、腎小体と尿細管を合わせて腎単位(ネフロン)という。遠位尿細管には緻密斑があり、尿の電解質濃度を監視する。

尿管は腎臓と膀胱をつなぐ管である。腎臓で生成された尿は、尿管から膀胱に入り、一時的に膀胱に貯まる。膀胱に一定量の尿が入ると、膀胱は収縮し、尿は尿道から体外に排出される。左右の尿管口、内尿道口で囲まれる領域を膀胱三角という。

男性の尿道は女性の尿道に比べ長い(男性18センチ、女性3センチ)。

尿道にも肛門と同様、不随意筋の内尿道括約筋と随意筋の外尿道括約筋があり、尿の排出に関与している。

49 生殖器系の概要

男性生殖器は精子を精製し対外へ送り出す系で、精巣、精巣上体、精管、陰茎、陰嚢、前立腺、精嚢、尿道球腺からなる。

精巣は陰嚢の中に左右1対あり、表面は白膜で覆われる。精子は精巣の精細管の壁(精上皮)で作られ、精巣の後上方にある精巣上体に蓄えられる。精子に栄養を与える細胞としてセルトリ細胞がある。また間細胞(ライディヒ細胞)では男性ホルモンが作られる。

陰茎などの刺激により射精が起こると、精子は精管を通り、前立腺・精嚢・尿道球腺などからの分泌物が加わり、前立腺を貫き(射精管)尿道から体外に排出される。

陰茎は左右1対の陰茎海綿体と1本の尿道海綿体から構成される。

女性生殖器は卵子を精製し受精した受精卵を胎児まで育てる系で、卵巣、卵管、子宮、腟からなる。

卵巣は子宮の左右に1対あり皮質には多数の卵胞を含む。発育した卵胞(グラーフ卵胞)からは卵子が腹腔内に排卵される(約28日周期)。卵子が放出された後の卵胞は黄体となり、ホルモン分泌など妊娠時に重要な役割を果たす。

排卵された卵子は卵管に捕らえられ、子宮へと移動する。腟から上ってきた精子と卵管の膨大部で受精し、受精卵は子宮に着床する。 子宮は膀胱と直腸の間にあり、上から子宮底、子宮体、子宮頸、子宮腟部に区分される。受精卵は子宮体に着床する。子宮や卵管の前後を子宮広間膜が覆っている。腟は子宮から体外に続く器官である。

50 内分泌系の概要

ホルモンを作る組織を内分泌腺という。内分泌腺で作られたホルモンは血管内に分泌され、血液に乗って標的とする臓器(ホルモンによって異なる)に作用する。唾液・胃液・腸液のように、胃腸内や皮膚外に分泌されるものは外分泌として区別する。

視床下部:大脳の下にある視床の一部。

下垂体:視床下部の下で、蝶形骨のトルコ鞍の下垂体窩にある。前・中・後葉に区分され、前・中葉は視床下部と門脈により連絡する(腺性下垂体)。後葉は視床下部と神経線維で連絡する(神経性下垂体)。後葉ではホルモンの産生は行われない。

松果体:間脳(視床)の背面にある。

甲状腺:甲状軟骨の前面にある。ホルモンを賛成する細胞を濾胞細胞という。

上皮小体(副甲状腺):甲状腺の背面に4個ある。

膵臓:左上腹部にある。外分泌腺と内分泌腺(ランゲルハンス島)の両方を含む。ランゲルハンス島を構成する細胞はα細胞)、β細胞)、δ細胞に分類される。

副腎:腎臓上部にある。皮質と髄質に区分され、それぞれ別のホルモンを産生している。

精巣・卵巣:精巣は陰嚢中に、卵巣は腹腔の子宮両側にある。

51 腹膜

腹腔にある大部分の臓器は二重の腹膜(臓側腹膜、壁側腹膜)によって包まれる。腹膜は臓器を覆うだけでなく、腹壁に固定されていない臓器との間に入り間接的に臓器の位置を保つ働きも担う。このような腹膜は間膜と呼ばれる(胃間膜、腸間膜、肝鎌状間膜など)。一部の臓器は間膜をもたず、直接後腹壁に結合している。腎臓、副腎、尿管、膵臓、十二指腸、上行結腸、下行結腸、直腸で、このような器官を腹膜後器官という。

男性の直腸と膀胱の間、女性の直腸と子宮の間はダグラス窩と呼ばれ、腹膜腔で最も低い場所に位置する。

52 神経系の概要

神経系は感覚・運動などの情報を伝達・統合する系で、以下のような分類がある。

中枢神経は脳・脊髄で、末梢神経は脳神経・脊髄神経である。

求心性(感覚)神経は感覚を末梢から中枢に伝え、遠心性(運動神経)は運動の命令を中枢から末梢に伝える。

また、体性神経は皮膚や筋に分布し、自律神経は内臓・血管・分泌腺に分布する。

神経組織は神経細胞(ニューロン)とその周りにあるグリア細胞からなる。神経細胞は、細胞体・軸索突起(神経線維)・樹状突起からなる

特に中枢神経において、神経細胞が密集する部分を灰白質、神経線維が密集する部分を白質という。大脳・小脳以外では、浅層(皮質)が白質、深層(髄質)が灰白質となる。脳では灰白質以外にも、いくつか神経細胞が集まる場所があり、これを神経核という。

53 中枢神経の概要

脊髄は延髄から下に伸びる約40センチの組織で、l1,l2付近で馬尾となる。中央には中心管が見られる。2カ所の膨大部がある(頸膨大・腰膨大)。

皮質は白質で前索・側索・後索に区分される。主に前索は運動神経線維、後索は感覚神経線維である。

髄質は灰白質で前角・側角・後角に区分される。主に前角は運動神経細胞、後角は感覚神経細胞、側角は自律神経細胞である。

脳は、延髄、橋、中脳、小脳、視床・視床下部、大脳からなる。脳の中でも延髄・橋、中脳は生命活動に不可欠な機能を担っており脳幹という。また、視床・視床下部を間脳という。

延髄は脊髄の上端に続く部分で呼吸・循環・消化に関わる中枢がある。運動神経はここで左右が交差する(錐体交叉)。神経核としてオリーブ核がある。

橋は延髄の上方にあり排尿中枢がある。神経核として橋核がある。

中脳は橋の前上方にあり姿勢反射などの中枢がある。神経核として赤核・黒質がある。大脳脚により大脳と連絡する。

視床は中脳の前方にあり感覚器(嗅覚以外)の中継点となる。視覚・聴覚の中継点となる外側・内側膝状体がみられる。視床下部は自律神経・体温調節・内分泌の中枢がある。

小脳は延髄の後上方にあり虫部と左右の小脳半球からなる。平衡感覚や無意識的な記憶運動に関与する。神経核として歯状核がある。

大脳は意識・感情の中枢で、3つの溝(中心溝、頭頂後頭溝、外側溝)によって、前頭葉・頭頂葉・後頭葉・側頭葉に区分される。

前頭葉は意識や思考に重要な部位であると共に意識的な運動の中枢がある(運動野または中心前回)。また、特に左脳には運動性言語中枢(ブローカ中枢)がみられる。

頭頂葉には、体性感覚(触圧覚、音冷覚、痛覚)・味覚の中枢がある(体性感覚野または中心後回)。

後頭葉には、視覚の中枢がある。

側頭葉には、聴覚・嗅覚の中枢があり、特に左脳では感覚性言語中枢(ウェルニッケ中枢)がみられる。

大脳下部の領域は視床下部などと共に本能・情動に強く関連する部分で、大脳辺縁系(旧皮質)と呼ばれる。

大脳髄質は白質であるが、その中に大脳基底核という神経核がある(尾状核、被殻、淡蒼球)。

大脳にある神経線維は、左右の半球を連絡する交連線維(脳梁)、大脳と多の脳を連絡する投射線維(内包)、同じ側の半球を宴楽する連合線維がある。

脳は、硬膜・クモ膜・軟膜の3枚の膜によって覆われ、くも膜と軟膜の間はクモ膜下腔と呼ばれる。また脳室という腔が4カ所ある。

第1・第2脳室(側脳室):大脳深部

室間溝:側脳室と第3脳室を連絡

第3脳室:間脳の間。

中脳水道:第3脳室と第4脳室を連絡

大4脳室:延髄・橋・小脳の間。脊髄中心管・クモ膜下腔と交通する。

4つの脳室・室間溝・中脳水道・脊髄中心管を含め脳室系という。脳室の脈絡叢で脳脊髄液が作られクモ膜下腔に分泌される。脳室・中心管・クモ膜下腔を循環した脳脊髄液はクモ膜顆粒で静脈に吸収される。

54 末梢神経(脳神経)

脳神経は脳から起始する神経で、左右12対ある。

1.嗅神経 2.視神経 3.動眼神経 4.滑車神経 5.三叉神経 6.外転神経 7.顔面神経 8.内耳神経 9.舌咽神経 10.迷走神経 11.副神経 12.舌下神経

「きゅうし どうかつ さんがい がんない ぜつめい ふくぜっか」

嗅神経:嗅覚に関与。鼻腔の嗅細胞から篩骨の篩板を通って頭蓋腔に入り、前頭葉下部の嗅球に至る。

視神経:視覚に関与。網膜から始まり視神経管から頭蓋腔に入る。下垂体の前で視神経交叉をした後、視床(外側膝状体)に至る。

動眼神経:眼球の運動などに関与。上直筋・下直筋・内側直筋・下斜筋・上眼瞼挙筋を、自律神経(副交感神経)として瞳孔を縮める瞳孔括約筋、水晶体の厚みを調整する毛様体筋を支配する。眼球周囲の筋から上眼窩裂を通って頭蓋腔を入り中脳に至る。

滑車神経:上斜筋を支配する。上眼窩裂を通って頭蓋腔を入り中脳に至る。

三叉神経:眼神経・上顎神経・下顎神経の三つからなる。顔面部の知覚、下顎神経は咀嚼筋の運動に関与。顔面部の皮膚や咀嚼筋から、眼神経は上眼窩裂、上顎神経は正円孔、下顎神経は卵円孔から頭蓋腔に入る。三叉神経節で1本の神経となり橋に至る。

外転神経:外側直筋を支配する。上眼窩裂を通って頭蓋腔を入り橋に至る。

顔面神経:表情筋を支配する。舌の前2/3の味覚を伝える(鼓索神経は顔面神経の枝)。自律神経(副交感神経)として涙腺・鼻腺・舌下腺・顎下腺を支配。顔面の筋や舌などから茎乳突孔、内耳孔を通って頭蓋腔に入り橋に至る。

内耳神経:聴覚を伝える蝸牛神経と平衡覚を伝える前庭神経からなる。内耳に始まり内耳孔から頭蓋腔に入り橋に至る。

舌咽神経:舌の後ろ1/3の味覚と咽頭の知覚、嚥下運動に関与する。自律神経(副交感神経)として耳下腺を支配する。頸静脈孔から頭蓋腔に入り延髄に至る。

迷走神経:咽頭の知覚、声帯筋や口頭の運動に関与する。代表的な自律神経(副交感神経)で胸腹部の内臓(心臓・気管・気管支・胃・腸など)に分布する。腹部から食道裂孔を通って上行し頸静脈孔から頭蓋腔に入り延髄に至る。途中、喉頭を支配する枝を出す(反回神経)。

副神経:僧帽筋・胸鎖乳突筋を支配する。頸静脈孔から頭蓋腔に入り延髄に至る。

舌下神経:舌の運動に関与する。舌下神経館から頭蓋腔に入り延髄に至る。

55 末梢神経(脊髄神経)

脊髄神経は脊髄から起始する神経で各椎骨の椎間孔から脊柱管の外に出て体表の皮膚・筋・内臓・血管などを支配する。頸神経8(c1〜c8)、胸神経12(th1〜th12)、腰神経5(l1〜l5)、仙骨神経5(s1〜s5)、尾骨神経(Co)からなる。

脊髄神経が支配する皮膚領域をデルマトーム(皮膚分節)といい、特に神経根部の障害などで重要な基準となる。

前根・後根が1本の脊髄神経となり脊柱管の外に出る。前根は運動神経線維、後根は感覚神経線維である。後根には脊髄神経節があり、感覚性(求心性)伝導路の中継点となる。脊柱管の外に出た脊髄神経は前枝と後枝に分かれる。後枝は頸・背・腰の皮膚・筋に分布し、前枝は胸腹部の皮膚・筋に分布する。また前枝の一部は神経叢を形成し上肢や下肢にも枝を送る。

c2の後枝は大後頭神経と呼ばれ後頭部の皮膚に分布する。

c1〜c4は頸部の上外側で頸神経叢を構成する。頸神経叢は主に後頭部や頸部に分布する。第4頸神経を中心に構成される横隔神経は頸部から横隔膜まで下行する。

c5〜th1は鎖骨上・下部付近で腕神経叢を構成する。

腕神経叢から出る主な神経:筋皮神経、橈骨神経、正中神経、尺骨神経、肩甲上神経、肩甲下神経、肩甲背神経、腋窩神経、胸筋神経、胸背神経、長胸神経

筋皮神経:烏口腕筋を貫き上腕二頭筋と上腕筋の間を下方に下り前腕外側への皮枝を出す(外側前腕皮神経)。

橈骨神経:腋窩から上腕後面を外下方に向かう。上腕骨外側上顆の前で皮枝と筋枝に分かれる。皮神は腕橈骨筋下を下方に下り、筋枝は長・短橈側手根伸筋下を下方に下りる。

正中神経:上腕では内側二頭筋溝を下方に下り肘窩中央に出る。前腕では浅・深指屈筋の間を下り手根管を通って手掌に入る。

尺骨神経:上腕では正中神経のやや後方を下り尺骨神経溝を通って前腕に出る。前腕では肘部管から尺側手根屈筋と深指屈筋との間に入り下方に下る。手掌ではギヨン管を通る。

th1〜th11は神経叢を作らず肋間神経となる。

th12〜l4は腰神経叢を構成する。

腰神経叢から出る主な神経:下腹神経、大腿神経(伏在神経)、閉鎖神経、外側大腿皮神経

大腿神経、外側大腿皮神経は腸腰筋と共に筋裂孔を通る。

l4〜s4は仙骨神経叢を構成する。

仙骨神経叢から出る主な神経:坐骨神経、下殿神経、上殿神経、陰部神経、骨盤神経、後大腿皮神経

坐骨神経は仙骨前面の仙骨神経叢から出て梨状筋下孔(大坐骨孔の下半部)を通って大腿後面の深部を走る。大体中央で脛骨神経と総腓骨神経に分岐する。脛骨神経はそのまま下腿後面を下行する。総腓骨神経は膝窩外側で深腓骨神経と浅腓骨神経に分岐する。深腓骨神経は下腿前面を下行し浅腓骨神経は下腿外側を下行する。

下殿神経、陰部神経は梨状筋下孔を、上殿神経は梨状筋上孔を通る。

>56 デルマトーム(皮膚分節)の概要

脊髄から出る脊髄神経は31対あり、それぞれの神経が支配する皮膚領域のことをデルマトーム(皮膚分節)という。

第1頸神経(後頭骨・c1間)→後頭部中央

第2頸神経(c1,c2間)→耳から後ろの頭部

第3頸神経(c2,c3間)→→頸部でワイシャツの襟があたる部分

第4頸神経(c3,c4間)→肩上部

第5頸神経(c4,c5間)→上腕の外側

第6頸神経(c5,c6間)→前腕の外側から母指・示指

第7頸神経(c6,c7間)→中指

第8頸神経(c7,th1間)→主部の内側から薬指・小指

第1胸神経(th1,th2間)→前腕内側

第2胸神経(th2,th3間)→上腕内側

第2胸神経〜第12胸神経は肋間神経として、鎖骨の下から体幹部を輪状に支配する。

第4胸神経(th4,th5間)→乳房の部

第10胸神経(th10,th11間)→臍の部

第1腰神経(l1,l2間)→鼠径部

第2腰神経(l2,l3間)→大腿の前面中程まで

第3腰神経(l3,l4間)→大腿前面中程より下で膝蓋骨を含む

第4腰神経(l4,l5間)→下腿内側

第5腰神経(l5,s1間)→下腿外側から足背

第1仙骨神経(s1,s2間)→足底

第2仙骨神経(s2,s3間)→下腿から大腿の後側

第3仙骨神経〜尾骨神経→臀部の中央を尾骨に向かって順に並んで支配

57 体性神経と自律神経

自律神経とは、内臓の平滑筋や腺組織を支配する神経で、不随意的に作用する。主にストレス状態で活発になる交感神経と、安静状態で活発となる副交感神経からなる。どちらも脳・脊髄から出た後、目的とする内臓・血管に到達するまでに神経節でニューロンを交代する。中枢から神経節までのニューロンを節前ニューロン、神経節から末梢に向かうニューロンを節後ニューロンという。

交感神経は、胸腰髄から出る脊髄神経に含まれ、脊髄神経と共に走り、内臓・血管・分泌腺などに分布する。脊柱の両側にある交感神経節(交感神経幹)でニューロンを交代し節後ニューロンとなる。

副交感神経には、脳神経に含まれるもの(動眼神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経)と仙髄から出るもの(骨盤神経)がある。分布する内臓・血管などの近くにある神経節でニューロンを交代する。

動眼神経:瞳孔を縮める瞳孔括約筋、水晶体の厚みを調整する毛様体筋を支配(毛様体神経節でニューロンを交代する)。

顔面神経:涙腺・鼻腺(翼口蓋神経節)、舌下腺・顎下腺(顎下神経節)を支配。

舌咽神経:耳下腺を支配(耳神経節)。

迷走神経:胸腹部の内臓(心臓・気管・気管支・胃・腸など)を支配。

骨盤神経:膀胱・直腸・陰部などを支配。

大部分の器官は、交感神経と副交感神経の二重支配・拮抗支配を受ける。副腎髄質、脾臓・立毛筋、汗腺、皮膚血管などは交感神経のみに支配される。唾液の分泌は、交感神経と副交感神経の両方で促進される。

58 伝導路

伝導路とは、運動や感覚刺激が伝えられる経路のことである。

運動性(下行性)の伝導路には、随意運動に関与する錐体路と不随意運動に関与する錐体外路がある。

錐体路は、大脳の中心前回から始まり、内包、中脳の大脳脚、延髄の錐体、脊髄前索、脊髄前角、末梢神経が関与する。

錐体外路には特定の経路は定まっていないが、特に脳の神経核が関与する。

感覚性(上行性)の伝導路としては、痛覚や温冷覚を伝える外側脊髄視床路、触覚・圧覚などを伝える後索路、深部感覚を伝える脊髄小脳路などがある。

脊髄視床路は、末梢から脊髄後角へ、脊髄後角で交差した後反対側の側索を上って視床へ、視床から大脳へと、三つのニューロンからなる。

後索路は、末梢から脊髄に入り後索を上って延髄へ、延髄で交差した後視床へ、視床から大脳へと、三つのニューロンからなる。

他に大脳を介さない反射路などがある。

59 感覚系の概要

視覚器、平衡・聴覚器、味覚器、嗅覚器、皮膚感覚などがある。

60 視覚器

眼球と付属機関からなる。眼球の外膜は前方(1/6)の角膜と後方の強膜からなる。眼球の中膜(葡萄膜)は虹彩・毛様体、脈絡膜からなる。眼球の内膜は網膜である。

光刺激は、角膜→瞳孔→水晶体→硝子体を経て、網膜に至る。

瞳孔は虹彩によって光の量を調節する(瞳孔括約筋、瞳孔散大筋)。水晶体は屈折力を調整する(毛様体筋)。瞳孔散大筋は交感神経に、瞳孔括約筋・毛様体筋は副交感神経(動眼神経)に支配される。

網膜は映像が投影される部分で視細胞の密集する中心窩では最も識別力があり、視神経が網膜を貫く部位(視神経乳頭)では視力が無い。

視細胞には色や形の識別に優れた錐状体細胞と光の感受に優れた杆状体細胞がある。前者は網膜の中央付近に、後者は網膜の外側に集中する。杆状体細胞の先端は外節といい、ロドプシンを含む。

眼房水は眼内組織の栄養液で、毛様体で産生され強膜静脈洞(シュレム管)で静脈に吸収される。

眼球は以下の6種類の筋によって運動する。

上直筋、下直筋、外側直筋、内側直筋は眼球を上、下、外、内に動かす。上斜筋は眼球を下外方に、下斜筋は眼球を上外方に動かす。外側直筋は外転神経、上斜筋は滑車神経、それ以外は動眼神経に支配される。

眼瞼は眼輪筋(顔面神経支配の表情筋)、上眼瞼挙筋(動眼神経)によって閉じたり開いたりする。眼瞼の後面は結膜で、マイボーム腺という脂腺がある。

眼球の外上方には涙腺があり、涙は眼球を潤す。涙は鼻涙管を通って少量ずつ下鼻道に流れ込む。

61 聴覚器

外耳、中耳、内耳からなる。

外耳は鼓膜によって中耳と隔てられる。

中耳は咽頭と交通する。三つの耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・鐙骨)によって、音を内耳に伝える。

内耳は蝸牛、前庭、三半規管からなりリンパ液で満たされる。中耳からの振動は前庭窓に伝えられる。

前庭には球形嚢と卵形嚢があり、その内部には身体の傾きを感受する平衡斑という受容器がある。

三半規管には回転運動や加速度を感受する膨大部稜という受容器がある。

蝸牛の螺旋管は鼓室階・前庭階・蝸牛管からなり、蝸牛管には聴覚の受容器(コルチ器)がある。

内耳にある聴覚・平衡感覚の受容器は有毛細胞という感覚細胞の集まりである。

62 味覚と嗅覚

味覚は舌に接触した化学物質を受容する感覚で受容器は味蕾の中の味細胞である。味蕾は舌乳頭上に散在するが、特に有郭乳頭、葉状乳頭付近に多くある。味細胞からの刺激は舌前2/3は顔面神経、後1/3は舌咽神経によって脳に伝えられる。味覚中枢は頭頂葉。

味の種類には、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5種類あり、甘味と塩味は舌尖で、苦味は舌根で、酸味は舌縁で特に感度が強い。

 嗅覚は身体の周囲に漂う化学物質を受容する感覚で、受容器は鼻腔の天上にある嗅上皮である。嗅神経により、大脳辺縁系の嗅球に伝えられる。味覚中枢は側頭葉。